距離空間とベールの定理

距離空間とは

集合Xの任意の元$x,y \in X$に対して、実数$d(x,y)$が対応し、以下の条件が満たされるとき、Xを距離空間という(必ずしもベクトル空間ではない)。
1. 非負性:$d(x,y) \ge 0$で、$d(x,y)=0 \Leftrightarrow x=y$
2. 対称性:$d(x,y)=d(y,x)$
3. 三角不等式:$d(x,z) \le d(x,y)+d(y,z)$

また、Xの元を点、$d(x,y)$を点x,yの距離(metric)という。Xとdの対応を明確に表現するには距離空間を$(X,d)$のようにペアで表す。

集合に対する有界

距離空間Xの点$x \in X$と正数$r > 0$を用いて定義される集合$B_{X}(x,r)=\{y \in X|d(x,y) < r \}$をxを中心とする半径rの開球という。

距離空間Xの部分集合$S \subset X$に対して、ある点$x \in X$と有限な$r>0$が存在し、$S \subset B (x,r)$とできるときSは有界という。また、距離空間Xの点列$\{x_n\}$は集合$A:=\{x \in X|x=x_nとなるn \in \mathbb{N}が存在する\} \subset X$が有界であるとき、有界な点列という。


距離空間の重要な部分集合:開集合、閉集合、閉包

実数直線状の閉区間と開区間の概念を距離空間閉集合と開集合に一般化する。

距離空間$(X,d)$の部分集合$S \subset X$について

  • 開集合:任意の$x \in S$に対して、これを中心とする開球$B(x,r):=\{y \in X|d(x,y) < r \} \ (r > 0)$がとれて$B(x,r) \subset S$のとき、Sを開集合という(こうなるようにrをとれるということ)
  • このときのxをSの内点といい、Sの内点をすべて集めてできる集合をSの内部といい、$S^{\circ}$で表す
  • Sの補集合$X-S$が開集合のとき、Sは閉集合という(この定義は直感的に分かりにくいので、後述するように点列の極限操作に対して閉じていると理解したほうがいい)
  • 集合Sを含む最小の閉集合を閉包といい、$\overline{S}$と表す
  • 円で考えると、開集合は円の内部であり、境界を含まない。なぜなら、境界では$r >0$である限りどんなに小さくしてもSに包含されないから
  • 円で考えた時の境界と内部を合わせたものが閉集合
  • 全体集合$X$や空集合$\emptyset$は開集合であり、閉集合でもある。集合の最小は条件を満たす集合の共通部分をとったものである。
  • 距離空間$(\mathbb{R},d)$に対して開球$B(x,r)$は開区間$(x-r,x+r)$となるから、結局任意の開区間$(a,b)$やその任意個の合併や有限個の共通部分集合は$\mathbb{R}$の閉集合となる
  • 区間$[a,b]$や任意の1点$x \in X$からなる集合$\{x\} \subset X$やこれらの有限個の合併や、任意個の共通部分集合は閉集合となる

距離空間閉集合は点列の極限の概念で特徴づけられる。
ここで集合Xの元$x_n \in X$が自然数$n=1,2,\cdots$にひとつひとつ対応するとき、$\{x_n\}$はXの点列という。
距離空間Xの部分集合Sと点$x \in X$(Sに属していなくてもよい)があり、xに収束する点列$\{x_n\} \in S-\{x\}$が定義できるときに、xはSの集積点であるといい、Sの集積点の全体の集合をSの導集合といい、$S^d$で表す。このとき、以下が成立

  • $\overline{S}=S \cup S^d$
  • Sが閉集合 $\Leftrightarrow S^d \subset S$

$\Leftrightarrow x \in Sに収束する点列\{x_n\} \in Sが存在するなら、x \in Sとなる$

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開集合、集積点

距離空間の可分性

どんな実数も有限桁の少数(有理数)でいくらでも精度よく近似できる。このことは加算無限集合$\mathbb{R}$の表現法「稠密な可算部分集合$\mathbb{Q}$の点列の極限」を持つということ。同様に、距離空間が稠密な可算部分集合を持つと、本質的に類似の表現法をもつ。
距離空間Xの部分集合$S \subset X$について、閉包$\overline{S}$が$\overline{S}=X$となるとき、SはXで稠密であるといい、距離空間Xの稠密な部分集合として可算集合が存在するとき、Xは可分であるという。

稠密性とは本来、”びっしりと詰まっている様子”である。例えば、有理数$a < b$を考えると、この間にはまたいくらでも有理数があること、つまり、任意の正整数をm,nとすると、
$a < \frac{am+bn}{m+n} < b$となる。したがって、SがXで稠密とはSがXと同じくらいに詰まっているということである。
例えば、$\mathbb{Q}$は可算集合で、距離空間$(\mathbb{R},d)$で稠密なので、$\mathbb{R}$は可分である。ただし、このときびっしりと詰まっている程度は有理数よりも実数のほうが大きく、これが集合の濃度が高いということである(実数の濃度はアレフ1、有理数の濃度はアレフ0である)。


距離空間の完備性

あるXの点列$\{x_n\}$が与えられたとき、その極限がXの中に存在していること(極限操作に対して閉じている)が保証されると、いろいろと都合が良い(具体的には後述するベールの定理が成立)。
そこで、距離空間は完備なものへ埋め込んで考えるのが有用である(位相空間はコンパクトなものに埋め込むと都合が良かったのと似ている)。また、それが収束先を知らなくても点列$\{x_n\}$の情報からだけで保証されていると便利である。

完備距離空間
距離空間$(X,d)$の任意のコーシー列に対して、この点列の極限が「Xに属する点」として存在することが保証されるとき、Xは完備であるといい、完備な距離空間を完備距離空間という。

また、完備でない距離空間$(X,d)$が与えられるとき、Xに新しい点を追加し、新しい集合$\tilde{X}(\supset X)$を構成し、さらに$\tilde{X}$に$\tilde{d}(x,y)=d(x,y) \ (\forall x,y \in X)$を満たす距離を導入することで、完備な距離空間$(\tilde{X},\tilde{d})$を構成することを完備化という。このとき$\tilde{X}$の中でXは稠密になるような$\tilde{X}$が存在する。

完備化定理
また、$\tilde{X}_1,\tilde{X}_2$が完備な距離空間ならば、$\tilde{X}_1$から$\tilde{X}_2$への全単射で以下の性質を満たすものが存在する。
\phi(x)=x \ \ (x \in X)
 \tilde{d}_1(x,y)=\tilde{d}_2(\phi(x),\phi(y)) \ \ (x,y \in \tilde{X}_1)

このような$\phi$があるとき、$\tilde{X}_1,\tilde{X}_2$は等距離同型である、また$\phi$は等距離同型写像という。
等距離同型な二つの距離空間は距離的な性質に限ってみれば区別できないので、同じものとみなされる。
すなわち、Xの完備化は等距離同型のものを同じと見れば唯一つである。


ベールのカテゴリー定理

完備な距離空間が持つ重要な性質の中で最も基本的なもの。標準的な表現は二つあり、これらは互いに対偶の関係があるが、それぞれに使い道があるので、両方とも知っておく。

$\{O_n | n=1,2,\cdots\}$を完備な距離空間Xの稠密な開部分集合の列とするとき、その共通部分$\bigcap_{n=1}^{\infty}O_n$もXで稠密である。

完備な距離空間Xの閉部分集合の列$\{C_n|n=1,2,\cdots\}$が
\displaystyle \bigcup_{n=1}^{\infty}C_n=X
を満足するなら、$C_n$の中の少なくとも一つは内点を含む

これは、上のベールの定理を認めれば、背理法により示すことができる。
証明:
仮にどの$C_n$も内点を含まないとすると、$C_n$の補集合を$O_n$とすると、$O_n$はXで稠密。ベールの定理よりその共通部分$\bigcap_{n=1}^{\infty}O_n$は空集合でない。
すると、
\displaystyle \bigcup_{n=1}^{\infty}C_n=\bigcup_{n=1}^{\infty}O_n^c=(\bigcap_{n=1}^{\infty}O_n)^c \neq X
これは定理の仮定と矛盾するので、少なくとも一つの$C_n$は内点を含む。

Xの部分集合Aの閉包$\overline{A}$が内点を含まないとき、Aは全疎であるという。そして可算個の全疎な部分集合の合併として表される集合を第一類の集合と呼び、そうでない部分集合を第二類の集合と呼ばれる。この分類という意味でカテゴリー定理と呼ばれる。

完備な距離空間がもし第一類の集合であるとすると、可算個の全疎な閉集合の合併になる。ところがその場合、いずれも全疎であるので、いずれでも内点がない。これはカテゴリー定理に反するので、完備な距離空間は第二類の集合である。

距離空間における写像の極限/連続性

(関数値の極限の一般化)
関数の連続性や微分可能性を考えるときに、変数がある値に近づくときにその関数値の挙動を考える必要がある。変数にはインデックスがないので、$\epsilon-\delta$論法を用いて定義する。

$X,Y$はそれぞれ距離$d_X,d_Y$が定義された距離空間であるとし、$D \subset X$を定義域とする写像$f:D \rightarrow Y$を考える。$x \in D$が集合Dのある集積点$\xi \in X$(必ずしもDに属していなくてよい)に限りなく近づくときに、対応する写像の値$f(x) \in Y$が限りなく$\alpha \in Y$に近づくことを以下のように定義する。
任意の正数$\epsilon > 0$に対して、ある正数$\delta(\epsilon) > 0$が存在し、$x \in D, \ d_X(x,\xi) < \delta \Rightarrow d_Y(f(x),\alpha) < \epsilon$になるとき、$\alpha$を$x \rightarrow \xi$のときの$f(x)$の極限と呼び、\displaystyle \lim_{x\to\xi}f(x)=\alphaと表す。

また、上記はそれぞれの距離空間X,Yにおける集積点を中心とする開球$B_X(\xi,\delta), B_Y(\alpha,\epsilon)$を用いても記述できる。

$f(D \cap B_X(\xi,\delta)):=\{f(x) \in Y | x \in D \cap B_X(\xi,\delta)\} \subset B_Y(\alpha,\epsilon)$

  • \displaystyle \lim_{x\to\xi}f(x)=\alphaは$\xi$に収束するいかなる点列$\{x_n\} \subset D$においても点列$\{f(x_n)\} \subset Y$が共通の$\alpha \in Y$に収束することを要請

写像の連続性

写像の極限が定義できれば、連続性も定義できる。つまり写像の極限がまた写像になっていることを示せばよい。

$X,Y$はそれぞれ距離$d_X,d_Y$が定義された距離空間であるとし、$D \subset X$を定義域とする写像$f:D \rightarrow Y$を考える。$f$が点$\xi \in D$で連続であるとは、任意の正数$\epsilon > 0$に対してある正数$\delta(\epsilon)>0$が存在し、
$x \in D, \ d_X(x,\xi) < \delta \Rightarrow d_Y(f(x),f(\xi)) < \epsilon$となること、
平易には$x \rightarrow \xi$のとき$f(x)$の極限が$f(\xi)$になることをいう。

上記はXの開球$B_X(\xi,\delta), B_Y(f(\xi),\epsilon)$を用いて以下で表現できる。

$f(D \cap B_X(\xi,\delta)):=\{f(x) \in Y | x \in D \cap B_X(\xi,\delta)\} \subset B_Y(f(\xi),\epsilon)$

  • $f$が部分集合$S \subset D$のすべての点$x \in S$で連続となるとき、$f$はSで連続であるという。
  • これは開集合であることが写像の前後で維持されることと等価である。つまり、$f$がXで連続$\Leftrightarrow$UがYの開集合ならば、$f^{-1}(U):=\{x \in X | f(x) \in U\}$はXの開集合

コンパクト性

有限次元のユークリッド空間においては有界閉集合であることとコンパクト集合であることとは同値になることから、コンパクトの概念はユークリッド空間における有界閉集合の概念を一般の位相空間に拡張したものである。具体的には、距離空間におけるコンパクトとは、有界閉集合で完備な空間のことである。

距離空間Xの部分集合Sに対し、開集合の族$\mathcal{U}=\{O_{\mu}|\mu \in M\}$(Mは可算でも非可算でもよい)があって、$S \subset \bigcup_{\mu \in M}O_{\mu}$となるとき、$\mathcal{U}$はSの1つの開被覆といい、開被覆から選ばれた適当な有限個の開集合$O_{\mu_1},O_{\mu_2},\cdots,O_{\mu_m}$により、$S \subset O_{\mu_1} \cup O_{\mu_2} \cup \cdots \cup O_{\mu_m}$となるとき、Sはコンパクトであるという。特にXがコンパクトであるとき、コンパクト空間という。

イメージとしては、コンパクトでない集合とは、無限個の開集合を使わないと開被覆が作れないような集合である。

距離空間Xの部分集合Sに対して、Sの点から構成されるどんな点列$\{x_n\}$に対しても、S中のいずれかの点に収束する部分列$\{x_{m(k)}\}_{k=1}^{\infty}$の存在が保証されるとき、Sは点列コンパクトであるという。

例:$\mathbb{R}$において、$S_1:=\{0\} \cup \{1\} \cup \{1/2\} \cup \cdot \cup \{1/n\} \cup \cdots$はコンパクトあるが、$S_2:=\{1\} \cup \{1/2\} \cup \cdot \cup \{1/n\} \cup \cdots$はコンパクトではない。これを示すには、任意の開被覆から$S_1$を覆える有限個の開集合をとれることと、$S_2$の特別な開被覆から有限個の開集合をどうとっても$S_2$を覆えないことを示せばよい。
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コンパクト性の言い換え

  • 距離空間Xの部分集合Sについて、Sはコンパクト$\Leftrightarrow$Sは点列コンパクト$\Rightarrow$Sは有界閉集合
  • ハイネ・ボレルの被覆定理:距離空間$l^2:=(\mathbb{R}^N,d_2)$においては、部分集合$S \subset \mathbb{R}^N$がコンパクトであることと、点列コンパクトであることと、有界閉集合であることは等価である。

連続写像によるコンパクト集合の像
X,Yはそれぞれ距離$d_X,d_Y$が定義された距離空間であるとし、fをXからYへの連続写像とする。SをXのコンパクト集合とするとき、fによるSの像$f(S):=\{f(x) \in Y | x \in S\}$はYのコンパクト集合となる。

ワイエルシュトラウスの最大値・最小値の定理
この定理のように重要な定理がその中で成り立つことがコンパクトという用語を作る意味である。

距離空間Xのコンパクトな部分集合S上で定義された実数値連続関数$f:S \rightarrow \mathbb{R}$はS上で最大値および最小値をとる

区間で定義された実数値関数が最大値および最小値をもつことを、より一般的に述べていると考えればよい。

連続関数の空間$C[a,b]$

有限な閉区間$[a,b]$上の実数値連続関数全体の作る集合を$C[a,b]$とかく。二つの連続関数$f,g \in C[a,b]$について、$f=g$とはすべての$t \in [a,b]$について$f(t)=g(t)$が成り立つとし、また、$d(f,g)=\sup_{a \le t \le b} |f(t)-g(t)|$とする。このとき$C[a,b]$が距離$d(f,g)$に関して完備である。

まず、有限な閉区間上の連続関数は最大値と最小値が存在するので、$\sup$は$\max$に変えてもよい。
上の距離空間において点列(今の場合連続関数)の収束は関数の一様収束ということである。今、$\{f_1,f_2,\cdots\}$が$C[a,b]$内のコーシー列とすると、各$f_n$は連続であるから、極限$f$も連続であり、$C[a,b]$に属する。よって、この距離空間は完備である。

縮小写像不動点定理

不動点定理と呼ばれるものはいろんな分野に複数存在する。解析学とくに距離空間で重要な不動点定理がバナッハ・ピカール不動点定理(縮小写像不動点定理)である。不動点定理はある方程式を逐次計算により近似的に解く際の解の存在と一意性を示すのに用いられる。
準備

  • 集合Xで定義された写像$T:X \to X$に対して、$z \in X$が存在し、$T(z)=z$を満足するとき、zはTの不動点であるという($Fix(T)$と表すとする)
  • 距離空間$(X,d)$上に定義された写像$T:X \to X$に対して、ある$\kappa \ge 0$が存在し、$d(T(x_1),T(x_2)) \le \kappa d(x_1,x_2) \ (\forall x_1,x_2 \in X)$とできるとき、TはX上でリプシッツ連続であるといい、これを満たす$\kappa$の集合$K(T)$の中で最小の$\kappa$をリプシッツ定数といい、$\kappa(T)$で表す
  • X上でリプシッツ連続な写像Tのリプシッツ定数が$\kappa(T) < 1$となるとき、Tは縮小写像という
  • ふたつの写像$T:X \to X, S:X \to X$がリプシッツ連続であるとき、それらの合成写像TSもリプシッツ連続となり、$\kappa(TS) \le \kappa(T)\kappa(S)$

縮小写像不動点定理:バナッハ・ピカール不動点定理
完備距離空間$(X,d)$で定義された縮小写像$T:X \to X$が与えられるとき、Tは唯一の不動点$z \in X$を持ち、任意の$x_0 \in X$に対して、$\lim_{n\to\infty}T^nx_0=z$が成立。さらに任意の$\kappa \in K(T) \cap [0,1)$に対して、
\displaystyle
d(T^n(x_0),z) \le \frac{\kappa^n}{1-\kappa}d(x_0,T(x_0)) \ \ (n=1,2,\cdots)
が成立。

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